青 ~境界の色~
自分は青色が好きです。
高貴かつ深みがあり、見ているとなにより落ち着く。
どこか別の世界に連れて行ってくれるようです。
西洋美術を勉強していると青が印象的な作品に数多く出会います。
スクロヴェーニ礼拝堂のジョットのフレスコ画、フェルメールの真珠の首飾りの少女のターバン、東山魁夷の青
周りを見渡すと世界には、結構青のものがあります。
頭を上げれば、空があります。
空は青です。
そして、海も青い。
空は宇宙と地球の境目、海は他の大陸との境目、青は別世界を隔てつなげる役割を帯びているのかもしれません。
宗教と青
ヨーロッパの人々は教会で今も昔も、祈りを捧げます。
教会は神に思いをはせ、自分の願いが神に受け入れられるようにお願いをする場所です。
このような宗教的な場でもこの青が使われている例がいくつかあります。
ジョットのフレスコ画の青、フランスのサントシャペルのステンドグラスの青などです。
教会はこの世と神の世界をつなぐ重要な場所
そこに境界の色である「青」が使われることはとても興味深いです。
彼らは当時、空や海といった青の世界の向こう側には自分たちが知らないようなもの(神秘的なもの)があるはずであると考えたのでしょう。
今でこそ、我々は宇宙があったり、海の向こうに別の大陸があったりと知っていますが、中世やルネサンスの時代にこういったことを知っている人はは極端に少なかったと思います。
意識を別世界、ここでは神の世界を想起するため、人々が普段海や空を見るのと同じような状況を教会内でも再現するために青を用いたのではないかと個人的に思います。
これは驚いたことに宗教と青の結びつきは、キリスト教の世界だけでなく、イスラーム世界でも同じです。
かつてウズベキスタンに行った際、モスクはどれも青が印象的でした。
それは中も同じで建物内も、深い青と金、そして白で装飾されていました。
自分はイスラム今日とではありませんが、天上を見上げていますが体が浮いて神の世界に近づけそうな一種の神秘的な体験ができるようでした。
このように「青」は宗教と親和性が」非常に高いと思います。
それは青自体の色の持つ効果、すなわち心を静める効果も手伝っているのかもしれません。
そう思えば、キリストの母のマリアも青色のマントが印象的です。
彼女は救世主である神の子を産んだ、この世とあの世の仲介を果たした「境界」の人物です。
なぜ青だったのか
馬杉宗夫著『ゴシック美術―サン・ドニからの旅立ち』 (八坂書房 2003年)によるとゴシック期以前の時代は「青」よりも「赤」の方が重要な色と考えられていましたが、この時を境に逆転現象が起こったそうです。
フランス王家のユリの紋章をご存知の方も多いかと思いますが、その背景に青が採用されたりして、青が重宝されるようになりました。
上記のような理由もありますが、相対的に「青」以外の色の地位が低くなったのも理由として挙げられるのかもしれません。
同じく馬杉宗夫著『ゴシック美術―サン・ドニからの旅立ち』で指摘されているところでは、赤や黄色がユダヤ人と結び付けられるようになったようです。
そのため、これらの色が悪いイメージになっていったようです。
確かに、第2次世界大戦中にナチスがユダヤ人につけさせたユダヤの星も黄色だったなと思いました。
上記の理由にもう一つ青が選ばれた個人的見解を加えたいと思います。
それは当時の人々は世の中の不安に対して、海や空を前にぼーっと物思いにふけることが多かったのではないかなということです。
昔は今のように科学も発達しておらず、天災や病気に対しての有効な手立ては「祈る」ということしかなかったのではないかと思います。
ひとたび何かが起これば神に助けを求めるほかなかったのでしょう。
そういった不安の中考え込むことも多くなり、海や空を見上げてこれからどうなるのか勧化ていたのかもしれません。
今でも悲しい気持ちの時に海を見に行くなんていう人もいるくらいですからね。
ゴシック美術―サン・ドニからの旅立ち』の中では、ヨーロッパ人の50%は青が好きであるというデータが紹介されていました。
これからヨーロッパに行く予定のある方は、教会はもちろんですがどういったところに青が使われているのかいろいろ観察してみると面白いかもしれませんね!