東京にまだ住んでいた頃の話です。
親戚の旦那さんに紹介されてよく行っていた居酒屋が王子にあります。
たのかんというお店です。たのかん
この居酒屋は場所も分かりづらく隠れ家みたいな雰囲気です。
店に入って見ると気のいい大将が迎えてくれます。
何を注文してもおいしいと聞いていたので早速メニューを見ながら考えていると、そこに悪名高きお通しが出てきました。
私にとってお通しは、客に食べたくないものを押し付け金を取るというイメージしかありませんでした。
ここもかと思いましたが、食べてびっくり。
うまい
この一言につきます。
なんでもおいしいと言われていたので、まさかお通しまでとはと思いました。
その中でもぜひ食べて欲しいと言われたのが、
破廉恥トースト (はれんちとーすと)
このお店でのフレンチトースト呼び名です。
なぜこのような呼び方になったのか真相はさだかではありませんが、そもそもなぜ居酒屋にフレンチトーストと思いました。
ただ見ためはとても居酒屋で作られたものには見えません。
こんがりと焼き上がったフランスパンにバニラアイスがのせてあり、その上からメープルシロップがかけられています。
私にはどこが破廉恥かは何度食べてもわかりませんでしたが、おいしさは破廉恥級です。
これにかなうフレンチトーストは今まで食べたことがありません(そもそもフレンチトースト自体あまり食べたことはありませんが…)
たのかんに行ったらぜひ食べていただきたい一品です。
ここにはフレンチトーストと並んで、もう一つデザートがあります。
それは「俺のティラミス」です。
「俺」がついている理由も私にはわかりません。
これもフレンチトースト同様なぜ居酒屋にあるのかわかりません。
ただこれもおいしい。
ぜひたのかんに行く機会があったら、デザートを二つ食べる余裕があってもなくても両方食べてほしいです。
今は行くことができませんが、早く行ければなと思っています。
さて前置きがかなり長くなりましたが、今日は最後に紹介したティラミスについて小話をしたいと思います。
このデザートがイタリアのものであることを知っている方は多いかと思います。
イタリアンレストランのデザートの定番でありますが、このデザートの意味や起源を知っていますか?
今日ここで、このデザートにこめられた意味を知れば食べた時にきっと話したくなると思います。(話す人は慎重に選びましょう。そこの責任は請け負いかねます)
しばしお付き合いください。
有名なものの起源でよくあることですが、ティラミスについてもいつ、どこで、だれによって作られたものか諸説あります。
いくつかのサイト、あるいは文献を確認しましたが、それぞれがティラミスに関して様々なことを書いていました。
その中でも一番信頼できそうなイタリア語のサイト、その名も Accamia del Tiramisù (ティラミスアカデミー)(Accademia del Tiramisù – il sito che tutela e valorizza il vero Tiramisù (accademiadeltiramisu.com)という名前のサイトを見つけました。
この団体は、2011年にティラミスの本当の起源やその伝統的なレシピに使う本当の材料などについて世の中に発信することを目的に設立されたそうです。
今回はこのサイトの情報を基にしてティラミスについて書いていきたいと思います。
最初にティラミスの言葉の意味を確認しておきましょう。
ティラミスはイタリア語では Tiramisù と書きます。
Tira は 動詞Tirare 引く、引っ張るの命令形
mi は 「私を」
suは 前置詞 「上へ」
という単語で構成されています。
3つの語を合わせると「私を元気にして」という意味になります。
ティラミスはイタリアのトレヴィーゾ(ヴェネツィアの近く)という町で生まれましたが、この地方の方言で Tireme su と呼んでいたのがイタリア語化されて Tiramisù になったと言われています。
ティラミスという言葉の意味が分かったところで、次はいつ、誰が、何のためにこのデザートを生み出したか見ていきたいと思います。
先ほどのティラミスアカデミーのサイトでは主に2つ紹介されていましたが、それぞれ紹介していきたいと思います。
1つ目はトレヴィーゾのレストラン Le Beccherie で生まれたというものです。
このレストランのシェフ Loly Linguanotto が、考案したと言われ、イタリア料理アカデミー協会の委員会(東京にも支部があるようです)がこのレストランで1970年にティラミスが生まれたということを公式に承認しています。
トレヴィーゾの料理の歴史を紹介した書物などでもこの説が概ねとられているようです。
このような最初のティラミスはどこで誰によってつくられたか、面白い面白くないで判断することはあまり良くないとは思いますが、少しばかり味気なさ過ぎないかと個人的に思ってしまいました。
2つ目のものはもっと魅力的であると思うので、次にそちらを紹介したいと思います。
2つ目の説はある種の伝説として考えられているようですが、1970年以前に、トレヴィーゾ出身の作家Giovanni Comisso ( 1895-1969 )が親しい友人へ宛てた手紙の中で、ティラミスについて言及していたため、ただ魅力的なだけでなく可能性としても完全に捨てきることはできないと思います。
もう一つの説も1970年からさらに遡った1800年代、イタリアのトレヴィーゾ。
ここには娼館を営むSioraという女主人がいました。
彼女の運営する娼館にはすでに妻を持っている男性が数多くやってきます。
本来であれば、売春などをせずに妻との営みを大事にしなければなりませんが、娼館に来るということは何かしら、夫婦間で問題を抱えていることを意味します。
もちろんこの娼館に来てもらうことは女主人のSioraにとっては嬉しいことですが、ただそこはイタリア人の家族を思いやる気持ちが強いためなのか、自分のお客に自身の妻も大事にしてほしいという思いが彼女自身ありました。
そのため、家に帰った後、彼らの夫婦の問題を解決するにはどうしたらいいものかと考えていました。
そこでSioraは自分のお店で精力を使い果たした男性たちに再び元気になってもらい本来の相手との営みをできるようにと、彼女はある食べ物を考案しました。
それが今でいうところのティラミスでした。
彼女は男性たちのことが終わり、階段を降りてくる少し前にティラミスを用意して
“desso ve tiro su mi “(今から私があんたたちを元気にするよ!)
と男性たちに知らせたようです。
この彼女のフレーズがティラミスという名前の起源となったようです。
またこの説を補強するものとしては、ティラミスに使われている材料があげられます。
ティラミスに使う材料は
コーヒー
砂糖
卵
マスカルポーネ
カカオのパウダー
サヴォイアルディ(砂糖がたっぷりかかった細長いビスケット)
これらの材料に共通する要素は
高カロリーで栄養満点
すなわち食材からしてまさに活力を与えてくれるデザートなわけです。
今回参照したサイトの表現をかりるならば、まさに天然のバイアグラ(viagra naturale)なのです。
最初に紹介した居酒屋のたのかんの話に戻りますが、そこの大将にティラミスの言葉の意味を教えたところ「あっちが元気になるのか」という下ネタをかまされてしまいましたが、あながち間違っていなかったわけです。
ティラミスについて紹介していた他の日本語のサイトでも、夜遊びの前に食べるものといった記述がいくつか見られたのもこういった売春宿の女主人が作ったという伝説があるからかもしれません。
今回紹介した説の中で、2つ目の方は日本語のサイトではほとんど言及がなかったものです。
自分で紹介しておいて何ですが、これも絶対的に正しいわけではないと思います。
それまでの様々な要素が重なって、結果的にイタリアのトレヴィーゾという町でティラミスが生まれたと思います。
だから、もしこのティラミスの起源を話す際は、正しいか正しくないかではなく「一つの説としてあるみたいだよ」と話していただいて場を盛り上げていただければと思います。
また今回参照したサイトでは、ティラミスがイタリア独立運動の際にオーストリアに対する食べ物の面での抵抗という話も書いてあったので興味がある方はぜひ読んでみてください(英語でも読めます)
それではみなさん Ciao Ciao.
参考文献
Tiziano Taffarello, ORIGINE DEL TIRAMISÙ: TRA “LEGGENDA E REALTÀ” Accamia del Tiramisù
Origine tiramisù – scopri le vere origini di questo dolce straordinario (accademiadeltiramisu.com)
(2021年3月8日 最終アクセス)
Tiziano Taffarello, STORIA RECENTE DEL TIRAMISÙ,Accamia del Tiramisù
Storia Tiramisù – storia e aneddoti del Tiramisù di Treviso (accademiadeltiramisu.com)
(2021年3月8日 最終アクセス)