答えを創り出す

私の通っていた大学の大先輩に北杜夫がいます。

 

学部は違えど同じ大学出身のため、一応先輩とは言えます。

 

彼の存在を知ったのは、中学生の時。

 

私の通っていた学校には、朝授業が始まる前に読書の時間がありました。

 

当時読書が好きでなかったので、国語の便覧(日本の作家紹介などした資料集)を大体読んでいました。

 

その中で、北杜夫を初めて知りました。

 

そこでは彼の著書も紹介されており、なんだか変なタイトルの本があるなと思ったのが第一印象です。

 

それは『どくとるマンボウ航海記』です。

 

どくとるの意味も当時は知りませんでしたし、何でマンボウであるのか意味がわかりませんでした(もともと彼が医者であることは当時知るよしもありませんでした。マンボウは未だにわかりません。)

 

その本を今になってはじめて読んでいます。

 

これは彼が船医として半年間船に搭乗し、世界各国を回った旅日記です。

 

立ち寄った街では大体女性や飲み屋の話が出てきますし、船に搭乗した動機もけっこうテキトーだったりします。

 

そもそもこの本の内容はあとがきにもこう記されています。

 

私はこの本の中で、大切なこと、カンジンなことはすべて省略し、くだらぬこと、取るに足らぬこと、書いても書かなくても変わりはないが書かない方がいくらかマシなことだけを書くことにした。

北杜夫著『どくとるマンボウ航海記』新潮文庫 昭和40年 p.224より抜粋

 

学校で配られた国語の便覧に載っていた人物のため、どんなお堅い人かと思ったらかなりユーモアがある人だったようです。

 

その中に私の好きな一節があります。

 

アフリカのあたりを航行中に、著者がアフリカの神話について語る場面です。

 

少々長いですが引用させていただきます。

 

またアフリカには死に関する神話が沢山あり、ズールー族のものはこうである。神様がある日カメレオンにむかって、さあ人間のところへ行って「人間どもよ死ぬな」と言ってこいと命ずるのだが、命をうけたカメレオンはノンキにのろのろと進み、途中で桑の実を食べたり日向ボッコしたりしている。その間に神様は気が変わって(実際神さまというものは大抵どえらいきまぐれ者である)トカゲを呼んで逆の命令を与える。トカゲはのんびりしているカメレオンを追いこし、人間のところに先にやってきて告げる、「人間どもよ死ね」それ以来いかなる人間も死を免れなくなったというのだが、私は怠け者のカメレオンをむしろ祝福したいと思う。死んで惜しいと思う人間はいくらもいないが、死んだら祝砲をブッ放したいと思う人間はマサゴの数ほど目にはいる。

北杜夫著『どくとるマンボウ航海記』新潮文庫 昭和40年 p.79-80

 

「どえらい」「祝砲をブッ放したい」という表現は、本を読んでいて久しぶりに笑ってしましました。

 

文章を書いているといいものを書こうと思ったり、何か世の中の真理みたいなものを書きたいと気張っていたのでカウンターパンチをくらったようでした。

 

この本は最初から最後までこの調子です。

 

さて彼は精神科の医師でしたが、この本を読むかぎり、あまり熱心ではなかったようです。

 

論文を書きたくなく、小部屋の片隅に『宇宙精神医学研究室』という看板を勝手に掲げてUFOなどの本ばかり読んでいたようです。

 

そして、船に乗る、文章を書くなど実に多くのことをしていました。

 

それゆえに先ほどの本の中でも、昆虫や海の生物、それまでに読んだ小説、医学の知識など様々な分野を行ったり来たりします。

 

この人は医者なのか作家なのか、虫好きの少年なのかよくわかりません。

 

だからこの人はどのような人なのか表現するときには医者であり、作家であり、昆虫好きでありなどなど様々な肩書がつらなります。

 

ただそれを全て集約したものを何というかと問われると、北杜夫としか形容できません。

 

無理に一つの職業に自分を当て込まなくていいのだと思いました。

 

以前の私は、将来のことを考えると職業ありきで考えてしますことが多かったです。

 

ただ、何になりたいかがよくわからない。

 

前はそれを残念に考えていましたが、今は少し変わりました。

 

なぜならそのことは、既成の枠に当てはまらないということを意味するからです。

 

 

なければその職業を生み出すしかありません。

 

だから何になりたいか具体的にわからなかったのだと思います。

 

 

私の場合文章を書いて、アーセナルの試合結果に一喜一憂して、いい組み合わせの服を見つけ出し、ヴァイオリンを弾いて、海外を旅してなどなど全てが一緒になった新たな仕事の名前を作るしかありません。

 

 

世の中でたまに、なんだその肩書はと思うものがたまにありますが、それは以前になかったものなので自己紹介をするときに(一応)困らないために編み出した類のものではないかと思います。

 

 

それを見習って私も職業名?肩書き?を仮でもいいので考えてみました。

 

 

今のところは「グローバルクリエイティブカルチャーアーティスト」とでもしておきます。

 

「具体的に何を?」と聞かれてもわかりません。

 

とりあえず私のやることに関してはいずれの場合も、このグローバルクリエイティブカルチャーアーティストという名前が無条件で適用されるからです。

 

私の好きな本にフランスの社会心理学者の小坂井敏晶さんの『答えのない世界を生きる』という本がありますが、それに倣って言えば「答えを創りだす世界を生きる」と今の時代は形容できるのではないでしょうか。

 

そう思った結果私が編み出したものが、グローバルクリエイティブカルチャーアーティストです!

 

 

先日、友人に勧められてアーセナルの特集された雑誌を購入しました。

 

アーセナルファンを約10年していましたが、モットーがあることを初めて知りました。

 

Victoria Concordia Crescit(勝利は調和の中から生まれる)

 

様々な国籍の選手が集まり華麗なサッカーを繰り広げるアーセナルを見事に表現しているなと思いました。

 

人生も一見関係ないこと(あるいはそれまでやってきたこと)から思いがけない調和が、アーセナルのサッカーのように生まれるでしょう。

 

その調和の先を創り出す。

 

最後にアーセナルの美しい調和をごらんください(特に最後の2つ!)

出典元:アーセナル公式YouTubeチャンネル

 

それではみなさんCiao Ciao

 

 

〈参考文献〉

北杜夫著『どくとるマンボウ航海記』新潮文庫 昭和40年