靴下の話

イアサント・リゴー《ルイ14世》1700-1701年 ルーヴル美術館蔵 パリ
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今、電車に乗っています。

 

向かいの席に中年の男性が一人座っています。

 

革靴にスラックス、少し柄の入った黒のセーター、黒のトレンチコート、ポール・スミス風のカラフルな縦縞のマフラーをしています。

 

そしてグレーのつばつきのハットをかぶっています。

 

田舎のローカル線でハットをかぶっている人はあまり見たことがなかったので、小粋にきめてるなと思いました。

 

そしてその男性は、脚を組んでいます。

 

スラックスの裾がすねの位置まで上がっていて、下に隠れていた靴下が見えています。

 

靴下はクシャッとくるぶしの周辺に寄り、ミシュランマンのように段々になっています。そして靴下とスラックスの裾の間からは毛の生えた素肌がちらっとのぞいています。

 

 

このあたりでおじさんの描写はやめておきましょう。

 

途中から最初の洒落た渋い男性のイメージが、途中から崩れ始めたように感じませんでしたか。

 

そのイメージを壊す原因となったものはおわかりでしょうか。

 

そう靴下です。

 

私がおじさんの描写をしたのは、靴下が全体のイメージを台無しにするほど危険なものであることを感じていただきたかったからです。

 

 

私も以前は靴下のことをよく考えたことはありませんでしたし、注意したこともありませんでした。

 

少し前に読んだものになってしまいますが、『男の服装術』というスーツの着こなし方の本があります。

 

スーツの話なので、靴やジャケットの話が出てくることは予想済みでしたがその中に靴下の章がありました。

 

どうして靴下に1章分も割いているのか、最初は理解できませんでした。

 

 

靴下

 

 

著者も指摘しているように名前で損をしているような気がします。

 

靴の「下」だとなんだか靴よりも重要でないもののような印象を与えてしまい、この言葉自体に日本人が靴下に抱く思い入れの少なさが表れていると思います。

 

英語ではsocks や hose などいくつかの単語がありますが、under shoes のような日本的な発想の名前のつけ方ではありません。

 

シャツやジャケットと同じように服装のアイテムの一つであるわけで、靴の付属品ではありません。

 

英語で靴下を表す単語として先ほどhoseを紹介しましたが、これはもともと「覆うもの」というのが語源でした。

 

昔のヨーロッパの貴族の肖像画を見ると短いパンツにストッキングを着用し素肌を見せないよう、何かしらの布で完全に覆われています。

 

当時のヨーロッパ社会ではファッションにおける肌見せは女性の領分で、それも上半身に限定されており基本的に男性は素肌を見せることはなかったからです。

 

そのため、フォーマルウェアにおいてスラックの裾が上がった時に肌が見えないようにしっかりと靴下で覆っておかなければいけません。

 

 

 

ここまで靴下について書いてきましたが、靴下がそんなに重要なものなのかとまだ疑っている方も多いと思います。やはり実例を見ていただくことが一番です。

 

上述の本でも、まさしく私が最初に描写したようなおじさんを電車で探してみてくださいと書かれていました。

 

幸い好例は毎日いたるところで見ることができます。

 

電車、オフィスどこでもいいので、普段よりも少し靴下に思いをはせてみてください。

 

明日、靴下チェックのために少しでも出勤することが楽しみになってくれたらうれしいですし、その結果靴下買おうかなと思っていただけたらもっとうれしいです。

 

今日はこのあたりで失礼します。

 

それではみなさんCiao Ciao.

 

〈参考文献〉

落合正勝著『新版 男の服装術 スーツの着こなしから靴の手入れまで』 株式会社PHP研究所 2010年